「人間という生物は、自分の中で起こるアンバランスを治癒できる力がある。」
これは、統合医療を世界中に広めたアンドルー・ワイル博士の言葉です。

心と身体は確かに繋がっており、健全な状態では、心身のシステムが一つの大きなシステムとなって無理なくスムーズに働いています。ですから、たとえバランスを失っても、自然な状態、すなわち健康な状態へ戻ろうとするのです。
しかし、抑圧、悲しみ、怒り、孤独感…など、激しいネガティブな思いが長期的に続くと、その回復しようとする力を超え、心身の狂わせてしまいます。

ワイル氏が提唱するように、私達がヨーガセラピーを実践する際にも、人間が本来持つ、健康な状態を取り戻そうとする自然治癒力を活かすことを心掛けています。
では、自然治癒力のシステムの調和が乱れた時、どこから取り掛かればよいでしょうか?
もちろん、様々なアプローチが考えられるのですが、このブログでは、“心への働きかけの第一歩”を言葉によって考えてみようと思います。
それは…「心を強くする」というイメージではなく、 心の働きを知って、うまく取り扱っていくようなものとお考えください。

さて、これまでヨーガセラピーを行ってきた経験から思うことですが、心のバランスの乱しやすさは、確かに、自己肯定感や自己評価の低さに関連しています。
自己肯定感は、幼児期の環境に左右されるのは、良く言われることですが、しかし、人生は、それだけでは語れないほど複雑です。社会の中で様々な問題に直面すれば、心が折れてしまうこともありますよね。
そんな時、しっかりと休息をとりながら、心の中で、自分のできないことを切り捨てて、整理してゆくことが必要になります。苦手な問題を克服するエネルギーの消費を、より効率的に使うようにするのです。
これは、見失ってしまった自己肯定感をいきなり獲得してゆくのではなく、
“自分の足元をしっかりさせること”
から始めてゆこうとするものです。言いかえれば、「自分自身の受容」への第一歩ですね。

先日、曹洞宗のご住職にお話を伺った時、こんなことをお話くださいました。
「現代では、禅の教えは、ビジネスの世界でも注目されるようになったね。一番有名なのは、Appleの創始者スティーブ ジョブスでしょう。彼が取り入れたことは、ただ一つ。“無駄を省け”ということだったんですよ。」
避けられない状況、過去の失敗など、問題を受け入れることは、非常に重要です。しかし、心身が健全な調和を保とうとするシステムさえも壊してしまうほどの衝撃があった場合には、過去の失敗等を自分自身ですべて引き受けず、解釈をもって進んでゆく必要があります。ここで、自己肯定感が重要な柱となるのです。
しかし、もしも、自己肯定感が、誰か他の人が認めてくれることでしか感じられていなかったり、完璧に仕事を成し遂げることでしかなければ、それは脆いものですよね。
今までは、気づかなかった自分の満足感や肯定感も、案外、無駄な力の寄せ集めであったのかもしれないのです。
聖典ヨーガ スートラでも、このことに導くかのように、禁戒、勧戒において“貪らない”、“知足”の教えが説かれています。
これは、自分が無意識に培ってきた無駄な力を捨てさる識別智の力を養うものでもあり、独りよがりではなく、揺らぎのない自分自身の受容をもたらす教えであることが、良く理解できます。ヨーガの道を極めた尊敬すべき人々は、無駄な力みもなく平穏であり、満足と放棄が両立し、かつ自分の進むべき道に迷いが無いという、良いバランスを持っていることからも明らかです。
そして、自分自身の受容が、本当のものか、あるいは、見せかけのものかを測ることも、重要かもしれませんね。でもこれは、実に簡単なことでわかります。
もうお気づきのように、それは、“感謝の思いが、自然に湧き上がるかどうか”によるのですから…。
こうして、調和の乱れたシステムも、心を調整してゆくことで、ゆっくりと本来の状態を回復させてゆくことが可能になります。
前述のアンドルー・ワイル氏も、著書「ワイル博士のうつが消えるこころのレッスン」で、次のように述べていらっしゃいます。
「わたし自身、その状態にあるときにいちばん無理なく、肯定的な自分になれていることに気づいている。ふだんは目障り、耳障りと感じるものごとに煩わされないようにしようとか、失敗しないように構えることに使われているエネルギーが、必要なところに正確に配分されていく。その心境でいられるときなら、自分がほんとうにどこに行きたいのかについても確信をもつことができる…。」
この気持ちは、まぎれも無く、無駄な力が省かれ、知足と満足を伴った自然治癒のシステムが、完全に一つとなって働いている状態です。

私たちのヨーガスタジオでは、主にアーサナや呼吸法を通して、このシステムの調和に取り組んでいますが、こうした知識からも、心の働きや気持ちの解釈をしっかりさせてゆくことができるなんて、やっぱりヨーガは、素晴らしく奥深いものですね!
そして、皆さんとヨーガを通して学んでゆけることは、何よりも幸せなことであると、しみじみと喜びと感謝を感じています。
さあ、これからも、ご一緒にヨーガを楽しんでゆきましょう!
~神戸 元町 三宮 ヨーガスクエア・ディーバ~
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